新型コロナ感染で逝去した志村けん、高倉健の意外な共通点
新型コロナ感染で逝去した志村けん、高倉健の意外な共通点
シャイな面
新型コロナウイルスによる肺炎で逝去した志村けんさん(享年70)。追悼番組が組まれ、懐かしい映像が放送された。交際説や結婚説などが噂された、いしのようこさん、優香さんとの共演シーンが見られ、志村さんの目はうれしそう。コントを通じてしか相手の女性に自分の想いを告げられない、シャイな面を垣間見ることができた。
ほのぼのとしたコント
1985年に「全員集合」が終了した後も、志村さんはコントにこだわり続け、「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」(86年~)、「バカ殿様」(86年~)、「だいじょうぶだぁ」(87年~)、「志村X」(96年~)などのコント番組を量産。流行を追うわけでもなく、いつの時代も変わらない、ほのぼのとしたコントで笑わせてもらった。
高倉健さんへの想い
コメディアンとしての印象が強い志村さんだが、かなり照れ屋で、素の自分を出すのは苦手らしく、ドラマや映画、トーク番組、司会業には応じなかった。
そんな志村さんが楽しみにしていたのが、2020年12月に公開予定の山田洋次監督の最新作『キネマの神様』。人生で初めて、映画の主役を務めるはずだった。心のどこかには、「人生初めてで、最後の主役映画」という気持ちがあっただろう。そうして、2014年11月に逝去した俳優、高倉健さんへの想いがあったのにちがいない。
映画「鉄道員(ぽっぽや)」
志村けんさんは「僕が映画に出演させていただくのは人生で2度目で、前回から約20年ぶりになります。松竹映画100周年という節目の作品に選んでもらい光栄なことだと思っております」と、映画主役の喜びを語っていた。
人生で2度目の映画。前回は、1999年の映画「鉄道員(ぽっぽや)」だった。
高倉健さん、小林矜侍さん、大竹しのぶさんらが出演する映画に、志村さんがキャストに名を連ねることになったのは、高倉さんから直々にオファーを受けたからだ。志村さんは、炭鉱夫役で映画デビューを果たす。ドリフターズの一員として映画に出演したことはあったが、ひとりの俳優として出演するのは初めてだった。
役者の顔
原作の「鉄道員」では、もともとは志村さんの役柄はなかったが、高倉さんが志村さんを映画の世界に引き込みたいので、キャスティングを設定した。
高倉さんからオファーを受けて、志村さんは「はい」と答えたそう。幼いころから見ている銀幕の大スターから誘われ、「一緒に映画に出られたら、こんな夢のような話しはない」と喜んだ。志村さんは、酒に酔いつぶれる炭鉱労働者役を見事に演じた。社会の底辺に生きる男の姿は、コメディアンとはまったく違う、役者の顔だった。
健さんの優しい気づかい
志村さんがメインのロケ地となる北海道へ向かう前日、高倉さんから留守番電話が入っていた。
「弟子入り志願の高倉健ですけど、こちら寒いですから明日は気を付けてきてください」というメッセージだった。映画に出るのは初めての志村さんはたいへん緊張していたが、高倉さんの一言で緊張感がほぐれた。健さんの優しい気づかいに志村さんは感動した。
健さんは実はコントが好き
撮影現場でも、高倉さんの気づかいには驚かされた。楽屋に入ると、花が飾られ、「なんなりとおっしゃってください」と、高倉さんからのメッセージがあった。これにも感動した。
高倉さんとの初対面の印象は「とても大きく、オーラをたくさん感じた」。志村さんは感動と緊張で足が震えた。握手をしてもらい、とても感動した。
高倉さんは静かな男のイメージがあったが、とてもおしゃべり好きでおもしろい人だったそう。高倉さんは実は志村さんのファンでもあり、志村さんがコント役でやっている寿司屋のおじさんの役が好きで、時々その真似をすることもあった。映画で共演した小林稔侍さんから教えてもらった。
小林稔侍さんが、高倉さんに、「(寿司屋のおじさん役を)やってみろよ」と言ったら、高倉さんは「今はできない」と照れたそう。
高倉さんはアドリブが好きで、酔っ払った志村さんを運んでいる時に、「あっ、こいつ小便もらしている」と言ったという。映画ではカットになっていたが、スタジオではウケていた。台本では、志村さんが寝ているというシーンだけだったが、高倉さんが「寝ているだけじゃもったいないから何かやらした方がいい」ということになり、志村さんは咄嗟の判断で『夢は夜ひらく』という歌をアドリブで歌った。
映画の土
志村さんは、この映画で高倉さんの映画に対する想いにも触れている。
「テレビはおやりにならないのですか」と尋ねたところ、高倉さんは「映画のスタジオの土が好きなんです」と答えた。
撮影が終わってからも高倉さんの存在は大きく、「心の中に永遠に残る人。永遠のスター」という想いを持ち続けた。
志村さんの笑いには“哀愁”がある
志村さんと高倉さんはすっかり意気投合し、高倉さんから「(ビート)たけしさんの笑いには“狂気”があり、志村さんの笑いには“哀愁”がある」と言われたそうで、志村さんは「それを聞いてオレ、すっごくうれしかったんだよね」と話した。
高倉さんとの共演で、志村さんに心の変化が見られた。2000年代には、コント番組以外にも、「発掘!あるある大事典」や「天才!志村どうぶつ園」などの司会や声優、ラジオ番組などにも出演し、活動の幅を広げていく。
共通する二人
だが、あくまでも本業はコメディアン。それはブレることはなかった。
「本当は(高倉さんに)バカ殿に出ていただきたかった」と、志村さんは言う。高倉さんも、志村さんのコント番組に出たかったにちがいない。だが、高倉さんは、映画のイメージを壊したくなかった。この映画『鉄道員』にしても、原作を知らないが、高倉健が主演だから観たいと思う。健さんが出ているから観に行きたい。そんなファンは多いはずだ。
健さんは不思議な人だ。男にモテる男だ。
志村さんが、哀愁を帯びた孤高のコメディアンを演じたように、高倉さんも寡黙な男の背中を映画で演じ続けた。二人は相反する世界にいながらも、互いの存在を身近に感じ、互いに共通する面を多く見ていた。
志村けんさんに、優し気づかいをいただいたという芸能人は多いが、高倉健さんとの出会いが志村さんにとっての原点だったのに違いない。
純情な少年のような人
私は、高倉健さんにお会いしたことがあるが、意外に茶目っ気たっぷりで純情な少年のような人だった。きっと、志村さんとコメディーを演じてみたかったのに違いない。だが、自分は映画のスタジオの土で花を咲かせている役者。これまでのイメージを壊したくない。プライベートでも、いつでも映画人であることを意識していた。まるで、「鉄道員」の主人公、乙松のようにどこまでも律儀な人だった。
日本で多くの役者や女優、アイドル歌手、グラビアアイドルがプライベートを見せ、コメディーやAV女優になる人も多い中、高倉さんは哀愁の男を最後まで演じ切り、映画ファンの期待を裏切ることなく、そうして永眠した。志村さんのコメディを見て、「哀愁」を感じるという感性の持ち主。それは互いの恋愛観にも通じる。
いしのようこさんとの夫婦コント
生涯独身のまま逝去した志村さん。いしのようこさんとの夫婦コントでは、あまりにも息の合った演技に、「本当の夫婦では」という視聴者からの声も。実際に半同棲生活を送っていた時期もありました。
優香さんにはゾッコン
デビュー当時、ホリプロ初のグラビアアイドルとして話題になった優香さんとも、恋の噂がありました。
優香さんがまだ高校生のころ、愛らしい表情に志村さんが一目ぼれ。『志村けんのバカ殿様』(フジテレビ系)などの番組で共演。志村さんが優香にゾッコンだったのは間違いないとのこと。しかし、志村さんはシャイで純情。心から好きになった女性にはきちんと告白して、交際を申し込むタイプ。志村さんは、優香さんをしょっちゅう食事に誘い、そのタイミングを計っていましたが、優香さんがマネージャーや自分の母親を連れてきて、告白できないままに終わったとか。
二人の決定的な場面は週刊誌などで報じられることなく、噂もフェードアウト。2016年には優香さんは、俳優の青木崇高と結婚。志村さんとは何もないまま終わったそう。
不器用な健さん
高倉健さんも女性関係には不器用。吉永小百合さんとの熱愛の噂や、大原麗子さんから一途に愛されたという噂も。倍賞千恵子さんとは付き合っていたそうですが、世間に知られたことで妙に意識し、破局へ。高倉健さんが生涯で唯一、結婚した相手が江利チエミさん。結婚から3年目でめでたく妊娠に至ったのですが、彼女が病気を患い、中絶という苦渋の決断をすることに。相思相愛なのに別々の人生を歩いた二人。45歳の若さで亡くなった江利チエミさんのお墓は、高倉健さんの自宅のすぐ近くにあり、彼女の命日にはひっそり手を合わす高倉さんの姿が見られました。
もう会えない二人
志村けんさんも、高倉健さんも、本当に好きになった女性には不器用。脚光を浴びながらも実は孤独。名声も富も手にしながら、自分が心から愛する女性とはうまくいかなかった。そうした影の部分があるからこそ、志村けんさんのコントには「哀愁」があり、高倉健さんの演技には本当の寂しさが感じられるのでしょう。もう、この世では会えない二人。過去の映像を見ることはできますが、もう生で会えないのは寂しい限りだ。
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