鹿の子が最後に見たもの

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鹿の子が最後に見たもの

 

忘れ去られた

森の中

 

リンゴの樹に

金色の鐘が

つるされていました

 

白い小鹿は

鐘を鳴らしました

 

おうちに帰りたいと

鐘を鳴らしました

 

ひとつ鐘を鳴らすと

闇から

フクロウが来てくれました

 

「ここに いてよ

君が いなくなると

僕は さみしくなるよ」

  

白い小鹿は

少し 笑いました

けれど

もうひとつ

鐘を鳴らしました

  

風の中

金色の馬が来てくれました

   

「ここに いてよ

君は 忘れていい

僕は 何度でも思い出すから」

  

白い小鹿は

少し 笑いました

けれど

もうひとつ

鐘を鳴らしました

  

霧の中

お父さん鹿が立っていました

  

白い小鹿は喜びました

「家に帰りたい」

  

白い小鹿は喜んだけれど

お父さん鹿に

目をつぶされてしまいました

  

白い小鹿は泣きました

「家に帰りたい」

 

 今度は

お父さん鹿に

舌を抜かれてしまいました

  

白い小鹿には

もう

家がどこにあるのかも

わからなくなって

  

リンゴの樹に

つるされた

金色の鐘を

何度も

何度も

鳴らし続けました

  

もう誰も

やって来ませんでした

  

忘れ去られた

森の中

 

鹿の子が

最後に見たものは

 

お父さん鹿の

悲しそうな顔

  

何もすることがなく

時間が

チッチッチッチと

棘ささる

  

誰ひとり

幸せにすることのできない

悲しそうな顔でした

※当サイトの文章、写真の無断引用は禁止致します。

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