前頭側頭葉型認知症とは?症状や特徴、原因、治療、薬、終末期は
前頭側頭葉型認知症とは?症状や特徴、原因、治療、薬、終末期は?
前頭側頭型認知症(前頭側頭葉変性症)とは?
前頭側頭型認知症(FTD)とは、「神経変性」による認知症の一つ。脳の「前頭葉」や「側頭葉前方」の委縮し、血流が悪くなるなどの症状が起こり、行動の異常や人格の変化、社会性の欠如、抑制が効かなくなる、言葉が出てこない、繰り返し行動といった特徴がみられます。
脳の萎縮
ほかの認知症にはみられにくい、特徴的な症状があることが特徴です。
神経変性による認知症は、脳にある神経細胞が減ってしまったり、本来みられない細胞ができたりして、脳が委縮することで発症することがわかっています。
脳の神経細胞に「Pick球」と呼ばれ球状物がみられるものを「ピック病」と呼び、前頭側頭型認知症のうち約7~8割がピック病と診断されています。
アルツハイマー病との違い
アルツハイマー病と比べて、前頭側頭型認知症は「人格の変化」「繰り返し行動」「言語機能への障害」などが目立ちます。
認知症の特徴である「記憶への影響」や「幻覚」「妄想」などの症状はほとんどありません。
このため、うつ病や統合失調症など、ほかの精神的な病気と間違えることが多く、前頭側頭型認知症と気がつくまでに時間がかかることがあります。
発症年齢は65歳未満の若年層に多く、平均発症年齢は約55歳。
働き盛りの年齢であるため、家庭や仕事に大きな影響を与えます。
ここでは、前頭側頭型認知症(FTD)の症状や特徴、原因、対応方法、治療、薬、終末期、寿命などについてもご紹介します。
前頭側頭型認知症の患者数、発症年齢は?
前頭側頭型認知症は、40~60代に発症することが多く、男女差はありません。
患者数は約1万2000人(日本人口当たり0.1%)。
70歳以降の高齢期は、非常にまれとされています。
若年性アルツハイマー型認知症と同じように、初老期に発症することが多いという特徴があります。
※情報提供元
「神経変性疾患領域における基盤的調査研究班」
研究代表者 国立病院機構松江医療センター 院長 中島健二
前頭側頭葉型認知症の症状
脳のなかで、前頭葉は「人格・社会性・言語」(思考や感情の表現、判断)をコントロールします。
側頭葉は「記憶・聴覚・言語」(言葉の理解、聴覚、味覚のほか、記憶や感情)を主につかさどっています。
前頭葉と側頭葉は脳の4割を占める重要な器官。
どちらの機能も、人格や理性的な行動、社会性に大きく関ります。
前頭側頭葉型認知症の症状・特徴
初期、中期、終末期
前頭側頭葉型認知症を発症すると、さきほどの機能が正常に働くことができなくなり、下記のような特徴的な症状が表れます。
初期
初期段階では、毎日決まった行動をするなどのこだわりが見られ、周囲への気づかいができなくなります。
人格が変わったようになり、これまで考えられなかったように暴言をはいたり、行動を止められると暴力をふるうこともあります。
物忘れなどの記憶への影響が見られないため、日常生活は以前と変わらずに送ることができます。
【自発性の低下】
みずから、何かをしようとする姿勢がみられなくなります。
家事をしなくなる、質問しても真剣に答えない、ぼんやりとして何もしない、引きこもるといったようすがみられます。
【言語障害】
物の名前が出にくくなります。知っているはずの言葉も意味がわからない、文字を読み間違うこともあります。
【感情の麻痺】
感情が鈍くなり、他人への興味や関心がなくなります。病気で寝ている人にも、健康な人と同じようなことを要求するなど、ひとへの共感や感情移入ができない、といったことが起こります。
【食事や嗜好の変化】
食習慣に変化がみられます。食事のメニューにこだわり、いつも同じものを要求し、同じものを食べ続けたりします。甘いものを過剰にとることが多くなります。
【抑制が効かない】
刺激に対する反応や欲求を抑えることができなくなります。
本能のまま行動するようになり、相手に対して遠慮がなくなり、暴力をふるうなど、社会性がなくなります。しかし、本人にはその自覚がありません。
中期
中期段階になると、行動異常が目立つようになります。日常の動作で、さまざまな低下が出てきます。
意欲の低下するため、初期段階でみられた暴力行為や配慮にかけた行動は起こりにくくなります。
言葉が出てこなかったり、相手の言葉を理解することができなくなります。
【同じ行動を繰り返す】
同じ行動を繰り返す「常同行動」が現われます。毎日、同じ時間に同じ道順で散歩する、同じものをつくり続ける、なくなるまで食べ続ける、決まった時間に決まった行動を取らないと気がすまない、同じことを何度も言う、といったことがみられます。
【立ち去り行動】
集中力がなくなります。じっと待っていられなくなります。病院の待合室にじっと座っていることができない。突然、立ち上がって出て行ったりもします。
【影響を受けやすく反復する】
まわりで起こっていることに影響されやすくなります。わざわざけんかしている状況に入りこみ、自分もまきこまれるなど、状況をうまく整理して判断し、分析することができなくなります。
相手の言葉をおうむ返しに繰り返す、動作を真似る、同じ言葉を言い続けるなど、主体性や自律心がなくなっていきます。
後期
終末期には寝たきりに
後期になると個人によって病気の進行に大きな差が出てきます。
日常生活における食事や排せつ行為、会話が困難になります。
最終的には寝たきりの状態になり、感染症などが原因で亡くなる方がいます。
前頭側頭型認知症の寿命は?
発症後平均6年から9年で寝たきりの状態になり、病状によっておおよそ8年前後で亡くなる方が多いとされています。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの運動ニューロン疾患を併発すると進行速度が著しく早まる場合があります。
これらの症状がゆるやかに進行し、発症してから平均6~8年で寝たきりの状態となります。
前頭側頭葉型認知症の原因
前頭側頭型認知症は脳の前方にある前頭葉や側頭葉が萎縮することによって障害が起きます。
頭側頭型認知症の原因は、最近の研究で、脳の神経細胞のなかにある「タウ蛋白質(たんぱくしつ)」と、「TDP-43」という病的タンパク質が関わってきていることがかわってきています。
これらのタンパク質の性質が変化し、たまることで、前頭葉や側頭葉に萎縮が起こるのです。
「TDP-43」は、筋肉が衰える難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の原因です。
「TDP-43」が脳と脊髄の両方にたまり、前頭側頭型認知症の方の一部がALSを発症させるのです。
なぜそのような病的タンパク質がたまるのか、という原因解明まではわかりません。
前頭側頭葉型認知症のなかでも、「ピック球」と呼ばれる神経細胞の一種が見られるものを、前「ピック病」と呼び、前頭側頭葉型認知症の一つとしています。
認知症を発症させる原因(炎症、栄養不足、毒素)など、生活習慣にも関わっていると指摘する人もいます。
前頭側頭型認知症の診断
前頭側頭型認知症の診断は、まず専門医を探します。
認知症の診療科は1つではありません。
「もの忘れ外来」「認知症外来」「脳神経内科」「精神科」「老年病科」「脳神経外科」などたくさんあります。
最初は、かかりつけ医に相談することをおすすめします。
まず、「問診」を行い、前頭側頭型認知症特有の症状が出ているかを確認します。
患者さん本人だけでなく、家族も同席して、自宅でのようすなど、さまざまな視点からようすを聞いて、診察を進めていきます。
前頭側頭型認知症の診断方法は?
問診
患者さんに家族が付き沿い、専門医と問診します。
これまでのようすや、今飲んでいる薬、ほかの病気、家族歴などを聞かれます。
あらかじめ、メモを準備しておくと診断の手がかりになります。
認知機能検査や言語機能検査など各種検査を行います。
MRI検査
超電磁力が埋めこまれた機械に体を入れて、磁石による磁場と電波によって体の内部の情報を調べます。20分ほど横になります。
脳の断面や血管の状態を画像にして、脳の萎縮などを調べます。
脳血流SPECT
SPECT(スペクト)検査では、カメラが体のまわりを回って撮影します。
脳の血流がどうなっているのか、どこの血流が悪いのかを調べます。
血行が良いと赤く表示され、悪いと緑色に表示されます。
前頭側頭型認知症の治療や薬は?
根本的治療法
前頭側頭型認知症には、現時点で根本的な治療法はありません。
アルツハイマー病認知症のように進行を遅らせる治療薬もありません。
症状を緩和するケアが中心の治療となります。
薬・精神的軽減
前頭側頭型認知症に対して、症状を改善したり、進行を防いだりする有効な治療方法や薬は開発されていません。
心を安定させるため、薬(抗精神病薬)を使います。
SSRIは、精神安定を図る神経伝達物質であるセロトニンの働きを強め、うつや不安を改善させます。
しかし、この薬で繰り返し行動などはなくなりません。少し和らぐ程度です。
薬には、エビリファイ(アリピプラゾール)、レキサルティなどが使われています。
エビリファイ(アリピプラゾール)の効果
心の具合を調整し、気持ちをおだやかにします。
心の病気の治療に用います。
気持ちの高ぶりや不安感をしずめ、停滞した心身の活動を改善。
もともとの適応症である統合失調にかぎらず、強い不安感や緊張感、興奮状態、うつ状態などさまざまな精神症状に応用されています。
レキサルティの効果
脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドパミンなどの受容体に作用し、幻覚・妄想などの症状を抑えます。
不安定な精神状態を安定させます。
やる気がしない、何も興味が持てないといったような状態を改善。 通常、統合失調症の治療に使われます。
※ご注意※
薬には副作用があります。どの薬が合っているかどうか。それを見ながらお医者さんと相談して薬による治療をすすめましょう。
言語訓練
前頭側頭型認知症は、アルツハイマー病に比べて、言語機能に強く障害が出ます。言葉が出てきません。
心に思うことがあっても、伝えることができない。
それが暴力的な行動となって表れたり、落ち込んで外部との世界を遮断してしまったりもします。
前頭側頭型認知症のケア
現在、前頭側頭型認知症を根本的に治す治療法はありません。そのため、症状を緩和するための対症療法やケアが、治療の中心となります。
対処療法としては、抗うつ病薬の一部に行動異常を和らげる効果が認められています。
また、前頭側頭型認知症に特徴的な症状を理解して患者さんの環境を整えることで、トラブルを未然に防ぐことができます。ここからは前頭側頭型認知症の患者さんへのケアのポイントを解説します。
前頭側頭型認知症のケアのポイント
前頭側頭型認知症の患者さんは病気の影響で理性的な行動が取れなくなったり、人格が変わったりするため、介護をする家族は戸惑い、困惑することも多いでしょう。病気の特性を生かして先回りして対策することで、病気によるトラブルを減らすことができます。
同じ時間に、同じ行動をする
前頭側頭型認知症には、同じ行動をとる「常同行動」という症状がみられます。
患者さんのこだわりにあわせたスケジュールを立てるましょう。
患者さんの日常生活を乱さないようにしましょう。
あらかじめまわりの人に声をかけておく
前頭側頭型認知症になると理性が働かなくなります。
暴力や差別的な言葉、暴言をはいたり、万引きをしてしまったりすることがあります。
まわりの人に病気のことを理解してもらい、よく行くお店にはあらかじめ事情を話して料金を払っておくなど、事前の対策を立てましょう。
認知症ケアに慣れた施設を利用する
施設利用を検討している場合、グループホームなどの認知症ケアに特化している施設がおすすめです。
グループホームは認知症の人を対象とし、5〜9人の入居者が共同生活を送る施設です。定員数が少なく、他の施設に比べてきめ細やかなケアが可能です。
また、スタッフも認知症患者さんのケアに慣れている点も安心です。
他に、認知症対応型通所介護などもあります。ケアマネジャーに相談してみましょう。
グループホームとは
前頭側頭型認知症は、認知症のなかでも、対応が難しい症状が多く、家族による介護の負担はとても大きなものとなります。
社会性の欠如や暴力的な言動、抑制が効かないといった症状は、薬では止めることはできません。
薬に頼るのではなく、家族が病気を理解し、無理に止めようとはせず、患者さんの仲に入りこんで、本人の側から見た世界を理解することが必要です。
家族だけで苦しみを抱えこまず、地域包括センターやケアマネージャー、デイサービスなどの各種福祉サービスなどを活用し、同じ境遇の方々と情報を共有し、連携することが大切です。
どんな支援が受けられる?
前頭側頭型認知症は、指定難病
前頭側頭型認知症は、ほかの他の認知症とちがって、指定難病に認定されています。
医療費の助成があります。
前頭側頭型認知症は2015年、厚生労働省が定める難病に指定されました。
重症度分類などに照らして、一定の要件を満たした場合には医療費の助成が受けられます。
必要書類を都道府県・指定都市の窓口に申請しましょう。医療受給者証が発行されます。
医療受給書が発行されると、所得に合わせて自己負担額の上限が設定され、超えた部分については支払う必要がなくなります。
「難病医療費助成」というのを受けることができ、難病法に基づく指定医療機関(病院、診療所、薬局、訪問看護事業所等)で受診した場合だけ、公費負担を受けられる人もいます。お会計の時に、治療費や薬代がうんと安くなります。
難病対策 厚生労働省
精神障害者保健福祉手帳の申請
前頭側頭型認知症と診断されると、精神障害者福祉手帳が申請できます。
等級が1から3級まであり、税額計算上の控除を受けることができたり、生活保護費の増額、各種公共料金の割引を受けることができます。
市区町村の精神保健福祉に関する窓口が担当しているので相談しましょう。
介護保険サービスの利用
特定難病で介護が必要となった場合、要件を満たした方で40歳以上の人は介護保険サービスを利用することができます。
介護保険サービスを利用する場合には、要介護認定を受ける必要があります。
グループホームの活用
グループホームとは、認知症の高齢者を専門とした、ユニット型の施設です。
5〜9人の少人数で共同生活する介護施設。
個室があり、食堂でほかの入所者と一緒に食べたり、ひとり個室で食事したりすることもできます。
住み慣れた地域で、安心して暮らし続けられる地域密着型サービスです。
認知症の方に合わせた環境が用意。
認知症介護の知識と技術を持ったスタッフが対応します。
1人暮らしに慣れるためのサテライト型も
グループホームでは、1人暮らしを行うことができるサテライト型住居もあります。
ユニット型と同じようなケアを受けることができる本体住居とは別に、少し離れた場所にサテライト型住居が設けられています。
どんな生活が良いのか、ケアマネジャーさんなど専門的な方と相談して入居を決めると良いでしょう。
前頭側頭型認知症の寿命は?
余命はおよそ10年
前頭側頭型認知症を発症してからの余命は、行動障害型で平均6~9年、意味性認知症では約12年という報告があります。
認知症は診断が難しく、いつから始まったのか、気づいたときには症状が進行しているので、余命としての平均値が付きにくいのです。
前頭側頭型認知症の進行を遅くするには?
前頭側頭型認知症には、根本的治療薬がありません。
進行を遅らせることができる薬も治療もありません。
対症療法(たいしょうりょうほう)になります。
病気の原因に対してではなく、主要な症状を軽減するための治療を行い、患者さんの自然治癒能力を高め、治癒を促進する療法です。
手紙を書く、やさしい言葉をかけてあげる、ハグしてあげるなど、家族が温かいぬくもりで接してあげると良い効果を生みます。
絶望し、悲しむことなく、日々、悔いのない、生活を送りましょう。
一緒に過ごし、写真を撮るなど、家族としての想い出をたくさんつくりましょう。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません